
能登半島地震という未曾有の災害から、力強く立ち上がろうとする石川県七尾市。その中心部の一角に、2025年3月21日にオープンした会員制・紹介制のBar Lounge Award(アワード)。
扉を開けるには専用のナンバーキーが必要という、文字通りの隠れ家を運営するのは、オーナーの堀川佐織さんです。元医療従事者という異色の経歴を持つ彼女が、なぜ震災後の能登で起業を決意したのか。そして、この空間に込められたおもてなしの心とは。能登の新しい未来の形をお届けします。
Contents
「隠れ家」が必要だった理由|金沢へ通う地元の本音から生まれた原点
堀川さんは、以前は石川県の金沢方面で医療関係の仕事に従事していました。その傍ら、副業として夜のバーラウンジでも勤務するという日々を送っていたのです。その二足のわらじの生活の中で、一つの気づきが芽生えます。
「金沢市のお店には、わざわざ一時間以上かけて七尾市から飲みに来られるお客様が何人もいらっしゃったんです」
なぜ、地元の七尾ではなく金沢まで足を運ぶのか。堀川さんが尋ねると、返ってきたのは意外にも切実な理由でした。
「七尾は狭い街。どこの店へ行っても、必ず知り合いや仕事関係の人に会ってしまう。誰の目も気にせず、ただ一人で、あるいは大切な人とだけ、静かに過ごせる場所が地元にはないんだよ」
この言葉が、堀川さんの胸に深く刺さりました。
「それなら、私が七尾に誰にも邪魔されない最高の居場所を作ればいいのではないか」。これが、現在の会員制・紹介制というスタイルの原点となりました。

「今しかない」と前を向く復興への強い想い
起業の構想を始めて3年。場所探しを続けていた最中、2024年1月1日に能登半島地震が発生します。七尾市内にある堀川さんのご実家も半壊。街全体が暗い影に包まれました。
多くの人が起業を断念、あるいは延期するような状況下で、堀川さんは逆に今こそ、この場所が必要だと感じたと言います。
「地震があって、人生いつ何が起こるか分からないと痛感しました。今まで生きてきた中で、このままでいいのかな?と感じていた自分に終止符を打ちたかった。年齢を理由に諦めるのではなく、想いがあればいつでもできる。両親のそばにいたいという気持ちも重なり、七尾で始めるのは今しかないと思ったんです」
ご両親の説得には時間がかかったものの、堀川さんの揺るぎない覚悟が周囲を動かし、震災から約1年後、ついに理想の場所との出会いを果たしました。

店名「Award」の由来|泡、時間、そして称賛される唯一無二の空間
Awardという店名には、いくつもの想いが重ねられています。
一つは、お酒の泡(awa)。
二つめは、過ごしていただく大切な時間(hour)。
そして最後は、いつの日かこの場所が皆様から称賛(Award)されるようなお店になりたいという願い。
「スナックでも、ただのバーでもなく、バーラウンジという形態にこだわりました。正統派のバーのように肩肘を張りすぎず、ラウンジのように会話をゆったりと楽しめる。0次会でも3次会でも、お客様が心からリラックスできる場所でありたいんです」
その想いは、店舗設計にも現れています。カウンター席とボックス席の間には、計算し尽くされた仕切りが設けられています。隣のお客様の視線や声が気にならないようにという徹底したプライバシーの保護。それこそが、金沢まで通っていたお客様が求めていた回答でした。



玄関を彩る「皐月恵」の版画|オーナーが愛するアートが紡ぐ非日常の世界

お店の扉を開けて最初に出迎えてくれるのが、現代美人画の旗手、皐月恵(さつき けい)氏の版画作品です。堀川さんが熱烈なファンであるこの作家の作品は、凛とした強さと、どこかミステリアスな美しさを放っています。
「お店を始めるにあたって、これだけは絶対に飾りたいと心に決めていました」
訪れる人たちの心を明るく照らす、光のような存在として、静かに見守ってくれているようです。
元医療従事者のこだわり|酵素ドリンクとコンブチャで提案する「健康と美」
Awardの最大の特徴とも言えるのが、来店時に提供される酵素ショットです。
お酒を出す店なのに、健康の話?と思われるかもしれませんが、これこそが堀川さんのおもてなしの心です。
「お酒を愛する人には、翌日の二日酔いを防ぎ、血糖値の急激な上昇を抑えてほしい。お酒を飲まない方には、美容と健康の効果を感じてほしい。まずは体をリセットしてから、至福の時間を始めていただくのが私のスタイルです」
お出しするドリンクは、お酒からノンアルコールまで、すべて堀川さんが試飲会に訪れ、自分の舌で納得したものだけをラインナップしています。中でも注目は、海外のセレブリティの間で火がついた発酵飲料コンブチャです。
有機栽培の茶葉を発酵させて作られるこの炭酸飲料には、体に入れるものに妥協したくないという堀川さんの想いが込められています。

豪雨の試練とお客様との絆|「信頼」という財産が守ったお店の未来
順風満帆に見えた船出でしたが、2025年8月、能登を記録的な大雨が襲います。地震の影響か建物の経年劣化かは不明ですが、傷んでいた屋上の防水シートから雨漏りが発生し、店内の壁や床が浸水。修復のために数日間の休業を余儀なくされました。
開業したばかりだというのに…と落胆。しかし、そんな堀川さんを救ったのは、会員制を通じて生まれたあたたかなお客様の言葉でした。
「『ママがとても良い人だから、ここへは安心して来られる。だから、紹介する友人は必ず良い人を選ぶよ』と言っていただいたんです。その時、数字や売上よりも大切な信頼という財産を、私はこのお店で築けているんだと確信しました」
お客様を無理に追っかけるのではなく、お店を大切に思ってくれる人を信じて待つ。その経営哲学は、同業の先輩からの素敵なお客様が来てくれるのを待つ勇気という助言が支えになっています。
また、堀川さんは「一目見て、この人は自分に合うか合わないかがすぐにわかる」と語ります。医療関係や接客業の仕事柄、数えきれないほどの人と向き合ってきた経験は、会員制という特別な空間の質を守るための選ぶ目でもあるのです。だからこそ、ここには本当に素敵な方々だけが集まり、互いに安心して過ごせる場所なんだろうと感じました。

能登の復興支援を「のとピッと」から|県外からの訪問が七尾の刺激に
現在の主な客層は30代後半から。最近では最高齢89歳の男性も訪れるなど、世代を超えた社交場となっています。堀川さんが今後、特に期待しているのは夫婦の時間や女性の新しい楽しみ方の提案です。
「子育てが一段落したご夫婦や、仲の良い女性グループの方々にこそ、この場所を使ってほしい。夜は忙しい女性のために、ご予約いただければ日中の貸切営業も承っています。お昼からゆっくりと、この静かな空間で心ゆくまで語り合ってほしいですね」
最後に、記事を読んでいる全国の皆様へのメッセージを伺いました。
「能登はまだ、復興の真っ只中です。でも、能登の人は強い。みんな底力で頑張っています。だからこそ、県外からたくさんの方が足を運んでくださることが、能登の人たちにとって刺激になり、人との繋がりを生み、能登を活気づける力になります」
『のとピッと』で広がる支援の輪

Awardは、能登6市町の対象店舗で利用できる地域限定のデジタルポイント事業のとピッとの加盟店。専用アプリでお買い物やチェックインをするだけでポイントが貯まり、地域の対象店舗での買い物やサービスに利用できる仕組みです。
「ぜひのとピッとをきっかけに、お買い物や観光で能登を応援してください。多くの人が足を運んでくださることこそ、私たちにとって何よりの喜びとなります」
「何歳になっても始められる」。堀川さんの言葉には説得力がありました。美しい皐月恵氏の版画に囲まれ、体に優しいコンブチャを嗜むひととき。それは、震災後の能登に最も必要だった誇りと安らぎを取り戻す時間なのかもしれません。七尾の夜を彩るAwardの明かりは、これからも能登の復興を静かに、そして力強く照らし続けていくことでしょう。
Bar Lounge Award(バーラウンジアワード) 店舗詳細
オーナー 堀川 佐織(元医療従事者、七尾市出身)
住所 石川県七尾市御祓町イ部9-1
営業時間 19:00~23:59(日中の予約利用可)
定休日 日曜、祝日
システム 会員制・紹介制(年会費 11,000円)
予約 Instagram公式LINEより受付
特徴 「のとピッと」ポイント加盟店

















