日本三大火祭のひとつ「向田の火祭」七尾市能登島

能登の美しい自然の中で育まれてきた文化。
その中でも、ひときわ熱く、神秘的な輝きを放つのが、能登島向田地区で毎年7月の最終土曜日に行われる「向田の火祭」です。
石川県指定無形民俗文化財とされており、「日本三大火祭」のひとつです。
別名「オスズミ」とも呼ばれるこの祭りは、まるで神様たちのロマンチックな「デート」を描いているかのよう。
今回は、まだこの祭りを体験したことのない皆さんに、その熱気と感動をたっぷりとお届けします!

神様たちの密会?「向田の火まつり」の物語

地元では親しみを込めて「オスズミ」と呼ばれるこのお祭り。そのユニークな言い伝えをご存知ですか?
なんと、はるか遠く新潟の男の神様が、石川県七尾市能登島の向田にある伊夜比咩(いやひめ)神社にいらっしゃる女神様に会いに来る、年に一度の「デート」の祭りだと言われているんです。
この粋な物語が、祭りの始まりから終わりまで、どこかロマンチックな雰囲気をまとわせています。
毎年7月の最終土曜日、日が暮れ始めると、向田の集落は一気に祭りの熱気に包まれます。

火祭りの準備

祭りの準備は、当日だけではありません。
向田の火祭は、地区の人々が力を合わせ、何ヶ月も前から準備を進める「手作りの祭り」です。
今年もこの日のために、地元の人々は実に多くの準備を重ねてきました。
2025年、準備のために行われた様子をご紹介します。

・4月20日:竹取り
松明に使用される竹を採取します。人々が手で持つ手松明に使われる竹は、地元の人々が山に入って切り出します。

・5月18日:柴刈り
芝刈りは、主に火祭りが行われる向田地区の山で行われます。こうすることによって山の手入れにもなります。
柴は火祭りの松明に使用されるのでたくさん必要となります。
各家庭に「柴7束提出」というノルマがあるほど、重要な作業です。
汗を流して柴刈りをすることから祭りは始まります。

・6月22日:モンガラ集め
手松明に使用される麦を集めます。中能登町の能登やまびこの麦畑から採取され、この麦は「モンガラ」と呼ばれます。

・ 7月6日:綱練り
祭りの主要な要素である巨大な綱を作る「綱練り」。皆で協力して藁を撚り合わせ、強固な綱を編み上げていきます。綱の長さはなんと125mです!

大の男3人で力を合わせて練られる強靭な綱は、火祭りで使われる巨大松明を束ねる際に使われます。
• 7月25日:松明おこしと奉燈(ほうとう)の組み立て
いよいよ祭りの前日! 祭りの主役となる大松明(だいたいまつ)の芯となる部分を組み上げ、奉燈(ほうとう)も組み立てられます。この奉燈、祭りの数日前には子供たちや若者たちが近くの用水路でゴシゴシと丁寧に洗い清めます。
ちなみに奉燈とは、神輿を先導する明かりという役割を持っていますが、その勇壮な姿はすっかりと祭りの象徴的存在となっています。キリコ、とも呼ばれますが、七尾のお祭りにおいては奉燈と呼ばれることが多いです。

• その他、見えないけれど大切な準備たち
神輿の乗せる台座のための「団子」作りは、子供たちが海岸から砂を取ってくる「砂取り」からはじまります。子供たちのこの作業も大切な役割です。

さらに、7月に入ると、小学校6年生から中学生が、祭りを盛り上げるお囃子(はやし)の練習に励みます。
これらの準備には「不参加の場合、出不足金が発生する」というユニークなルールもあるほど、地域一丸となって作り上げる祭りであることがわかります。一つ一つの作業に、地域の人々の深い愛と絆が込められているのです。

高さ30mの炎が夜空を焦がす「火祭」

そして迎える、火祭り当日!

日が傾き、夜の帳が降りる頃、祭りのボルテージは最高潮に達します。
伊夜比咩(いやひめ)神社にて神事を執り行った後、神社から御神火となる火をもらい、神輿と奉燈が連なってお囃子とともに大松明のある広場に向かいます。

松明に火を灯す前に、奉燈は大松明を中心に7周します。
その後神輿の御神火で手松明に火をつけていきます。
手松明は前日までに町民により作られ、その大きさは高さ1.8mもあります。


手松明は今年は200本作られました。以前は400本も作られ、大勢の人が手松明を持ったそうですよ。この手松明は地元の人、そして観光客も手にすることが出来ます。


みんなの手松明に火がつけられたら、火が消えないようにゆっくり振り回しながら全員で大松明の周りをまわります。昔は走って廻っていたとのことですよ。すごい迫力だったでしょうね!
そして、いよいよ合図と同時に、火のついた手松明を中央にそびえたつ大松明に投げ入れます!


一気に燃え上がる巨大松明は、火炎のように夜空に向かって燃え盛ります。
この大松明は、松明の先端にある御幣も含めると高さ約30mにもなります。
実物を見た方はそのあまりの高さと大きさに驚くと思いますよ。“サシドラ”という数本の太い木でこの高さのある大松明を支えています。
この大松明は、真ん中に芯木の“オオギ”があり、その周りを芝で囲んであるので、火が付くとあっという間に燃え上がります。
火がつけられると、乾いた柴と竹がパチパチと音を立て、真っ赤な炎が夜空に向かって勢いよく立ち昇ります。あたりは一瞬にして昼間のような明るさに包まれ、その熱気は観客の肌にもダイレクトに伝わってきます。
燃え盛る大松明は、ゆっくりと焼け落ちていくのですが、大松明の倒れる方向によって、その年が豊作か豊漁かを占うそうです。
大松明が山側に倒れたら「豊作」、海側に倒れたら「豊漁」とのことです。さて、今年はどちら側に倒れるでしょうか?
そして、大松明が燃え落ちて倒れた時にさらに見所があります。


それは、倒れてからも燃え続ける大松明の中から勇敢な男衆が芯木を取り出すところです。その様子は熱気と勢い、そして緊張感を伴います。オオギと呼ばれる芯木は、サシドラと呼ばれる支柱と共に翌年の火祭りまで池に沈めて保管しておくのだそうですよ。

炎の熱、奉燈の光、そして響き渡るお囃子の音色と人々の歓声。五感すべてで祭りの臨場感を味わうことができます。それはまるで、遠い昔から受け継がれてきた能登の魂が、炎となって燃え上がっているかのよう。神様たちの「デート」を見守るかのように、夜空いっぱいに広がる火の粉は、人々の願いや祈りを乗せて舞い上がります。

祭りの後も、続く絆と伝統

祭りの翌日、7月27日は「火祭り後片付け」。燃え尽きた松明の残骸を片付け、翌年に向けて清掃が行われます。祭りは一夜限りのものではなく、準備から片付けまで、地域の人々が共に汗を流し、協力し合うことでその絆を深めていきます。
能登島「向田の火祭」。それは、ただの火祭りではありません。神話と歴史、そして現代に生きる人々の情熱と絆が織りなす、壮大な夏の夜のロマンです。ぜひ一度、能登島へ足を運び、この肌で感じる熱気と心揺さぶられる感動を体験してみてください。きっと、あなたの心に深く刻まれる、忘れられない夏の思い出となることでしょう。

【向田の火祭 2025年日程・詳細】
石川県七尾市能登島向田町 向田崎山広場
19:30 火祭神事
20:00 奉燈崎山広場に向け出発→奉燈崎山広場到着→神事 復興祈願→手松明が大松明周囲を回る
21:00~21:30 大松明に点火
22:30 神輿、奉燈の帰還
主催:能登島向田町会 向田の火祭実行委員会


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