食文化の香りを守り、能登の未来を運ぶ「カナカン株式会社」の挑戦と感謝 | 七尾市

2024年11日に発生した能登半島地震は、多くの人々の暮らしと、能登で事業を営む企業に甚大な被害をもたらしました。

金沢市に本社を置き、北陸・信越エリアのの流通を担う老舗卸売業、カナカン株式会社。その事業は、能登のスーパーや商店、飲食店に欠かせない食料品や酒類を安定して供給し、地域住民の生活を支えるインフラそのものです。

「能登はさみしくなったね。でも、能登の人は能登が好きだ。結局帰ってきたがるね」。

そう語るのは、カナカン株式会社 営業本部 能登エリアマネージャーの吉本栄一様。地域に深く根ざし、ともに歩んできた吉本様が語る、震災直後の壮絶な状況、全国からの心温まる支援、そしてを通して能登の未来を築く決意に迫ります。

食文化の香りを伝える老舗卸売業としての使命

カナカン株式会社は、昭和21年(1946年)に創立され、70年以上にわたり北陸の食文化を支えてきました。酒類・食品の卸売業として、デパート、スーパー、コンビニ、ホテル、料飲店など幅広いお得意様と取引を行っています。

同社が掲げる経営理念の基本姿勢には、
「私たちは顧客志向を基本とし、創造と進取の精神をもって、いかなる環境の変化にも前向きに挑戦し、社員を育て、市場を創り出し、それぞれの分野でリーダーシップをとりつづける、バイタリティーあふれるグッドカンパニーをめざします」
とあり、この言葉には、時代の変化に立ち向かい、常に挑戦し続ける同社の姿勢が表れています。また、伝えます 食文化の香りを基本コンセプトとし、長期ビジョンKV21を策定し、食のプロフェッショナルとしての誇りをもって地域社会への貢献を目指しています。この姿勢は、震災後の困難な状況下で、社員一人ひとりの行動の原動力となりました。

元日を襲った激震、シャッターの先に見たビールの海


吉本様は、202411日の地震発生の瞬間、野々市の自宅にいらっしゃいました。ご自身やご家族、そして多くの従業員の方が無事であったことは不幸中の幸いでした。

しかし、能登エリアの営業所の被害は甚大でした。翌2日、七尾営業所へ向かう前にまず大切なお客様の住む志賀町へ向かいました。しかし志賀町へのルートは軒並み寸断されており、辿り着くまでに幾度となくこの道もあの道も行けないという事態に直面しました。

写真は現在の倉庫の様子です。

お客様の安否を確認した後、ようやく七尾営業所にたどり着いた吉本様の目に飛び込んできたのは、斜めにずれ、壊れ落ちたシャッターでした。「正直、終わったなという言葉が浮かびました」と、当時の絶望的な心境を物語ります。年末で在庫が豊富にあった倉庫は、倒壊した瓶ビールによって一面ビールの海と化し、缶ビールの箱もシャッターにもたれかかるように倒れていました。上の階の天井は落ち、ガラスが割れて、中に入ることもままならない状況でした。

被災時の写真はカナカン株式会社よりご提供いただきましたものです。

事務室の扉のガラスが割れ、天井も一部落ちていたそうです。

「建物に誰もいない11日でよかった」と吉本様は振り返ります。もし営業日であれば、従業員の生命に関わる惨事になっていた可能性は否定できません。物流の責任者や支店長の市村様(当時)も駆けつけ、皆が何から手をつけようかといった心境で立ち尽くす中、まず行ったのは、床の瓶や物を片付け、安全を確保することでした。従業員は、珠洲や門前など、甚大な被害を受けた地域にも住んでいましたが、地震を理由に仕事を辞める人は一人もおらず、14日の仕事始めを待たず、3日から出勤して復旧作業にあたった方もいたといいます。

発災直後の仕事上の困難と買い物難民への対応


発災直後から取引先であるお客様が営業できなくなったため、物流は完全にストップしました。卸売り業者として事業を続ける上で最も困ったことは、道路の寸断による移動の困難さと、ライフラインの停止でした。

しかし、一週間後には一部で営業を再開するお客様が出始めます。その時点で用意できるものだけでもというお客様の切実な願いに応え、七尾支店は配送を再開しました。食料品の供給が途絶え、買い物難民となっていた多くの方々からの少しでもいいから食べ物が欲しいという声に、食のインフラを担う企業としての使命感を持って応え続けました。

奥能登では備蓄が進んでいたのか、「水を持ってきてほしい」という要望は意外に少なかったことも、現場での対応の中で得られた知見でした。

備えへの教訓と経済的な打撃

今、当時を振り返り、「事業継続の備えとして、これをしておけば良かった」ということは特にないのですが、強いて言うならば、瓶ビールの倒壊防止対策をしておけばよかったとのこと。地震によって瓶が倒れて割れ、大きな経済的打撃を受けたからです。


「今回、瓶ビールの被害が大きかった。箱ごとビニールラップを巻いて倒壊防止しておけばよかった」と吉本様。現在は、再発防止策として、箱ごとビニールラップを巻いて保管する対策を施しており、今回の経験を教訓としています。瓶飲料の保管の難しさを改めて痛感し、今後の災害への備えとして、この経験から得た知見を同業者にも共有したいと考えられています。

「何も言わず、すぐに駆けつけてくれた」心に残る支援

発災後、カナカン株式会社は、多方面から心温まる支援を受けました。特に心に残っているのは、人の助けでした。

道路が寸断され、ひどい状態であるにもかかわらず、本社や各支店から多くの社員、さらにはメーカーの方々が何も言わずに、すぐに駆けつけてくれたことは、何よりも心強かったといいます。彼らは、電話で状況を聞くことすら迷惑になるだろうと配慮してくれたとのことです。

物資面でも、すぐに水、ポリ容器、掃除グッズ、タオルなどが届けられました。ポリタンクが足りない、と聞けば、被災を免れた地域で買い集め、さらにそれに水を入れて持ってきてくれたといいます。大手ビール・酒メーカーからも、大量の水の支援がありました。

これらの支援は、単なる物資の提供に留まらず、被災地の社員とその家族の安全と復旧作業への献身的な協力であり、被災の困難をみんなで乗り越えて頑張ったぞという、同社の団結力を支える大きな力となりました。吉本様は、この迅速で、親身な対応に対して、今も深い感謝の念を抱いています。

復興への道のりと直面する課題

「七尾の街はさみしくなったね」と吉本様は率直に現状を語ります。202510月末には、多くの解体業者が撤退予定であり、さらに街の寂しさが深まるのではないかという懸念を抱いています。しかし、普通の生活に戻るのはいつだろうという不安の中にあっても、「能登の人は能登が好きだね。結局帰ってきたがるね」と、能登への愛着と、必ず故郷に戻るという人々の強い意志を信じています。

被災後、二階の事務室が使えなくなったため、社員は一階の事務室に寿司詰めになって仕事をするという苦しい状況が続きました。応急処置の後、20245月から10月にかけて本格的な工事が行われましたが、その間も従業員は毎日出勤し、社員食堂が使えない代わりに職場の玄関口で炊き出しのように食事を用意しながら、仕事に取り組み続けました。

現在、事業を継続する上で直面している一番の課題は、物流、配送です。売上が減少しているため、トラック台数を減らさざるを得ませんでした。毎日行っていた配送を、週に3回、週に2回などにして、少ないトラックの台数で効率よく奥能登まで回るように工夫しています。震災後の売上は大きく減少しましたが、今年に入りわずかに回復傾向にあり、まだ回復できる幅はあるだろうと前向きに捉えています。

未来への展望と地域への貢献

震災という大きな困難を経験し、能登の復興に向けて自分たちができることを考える中で、カナカン株式会社は食を届けるという原点に改めて立ち返ることになりました。

同社の大切なお客様であるスーパーどんたくが、「食文化を守りたい。いいものを提供していきたい」という強い決意を示される中、カナカンもその想いを支え、協力を惜しまない姿勢です。卸売業としてお客様の事業を支えることこそが、能登の人々のの安心を守り、地域復興に貢献する最大の力になると考えています。
また、震災後、地域への支援として、在庫となっていた賞味期限間近のお菓子を七尾から奥能登の小学校へ配布する取り組みも行いました。地域の子どもたちに少しでも笑顔を届けたいという、温かな思いが込められています。

「観光を復活させるには、まず宿泊施設がなければ始まりません」。

吉本様は、現在の能登が抱える大きな課題として、宿泊インフラの再建を最優先に挙げています。同時に、奥能登が持つ豊かな魅力を外に向けて発信し続けることも欠かせないといいます。

特に珠洲については、「本当に綺麗なところ。日帰りでもいいので、ぜひ一度訪れてほしい」と力強く語り、その美しさを全国に届けたいという想いを示しました。そのためにも、まずは道路の復旧を急ぎ、観光客を迎えられる環境を整えることが必要だと指摘します。

さらに「輪島朝市は能登復興の象徴になる」と話し、文化と経済の再生を象徴する存在として、再建への大きな期待を寄せています。

全国へ、能登へ、未来へのメッセージ

最後に、この記事を読んでくださる全国の皆様へ、吉本様から力強いメッセージをいただきました。

「能登にご協力いただきありがとうございます。この困難な状況下でも、能登の人は能登が好きで、必ず帰ってくるという強い思いを持っています。若い人のまちづくりに大きな期待をかけています。能登の美しい自然、文化、そして食をもう一度輝かせるために、私たちは食をお届けするという使命を果たすことで、地域とともに歩み続けます。復興にはまだまだ時間がかかりますが、ぜひ能登に足を運んでいただき、この地の魅力を感じて、私たちとともに能登の未来を創る一員となってください。引き続き、温かいご支援をお願いいたします」

カナカン株式会社は、能登の食文化を途絶えさせないという強い意志と、全国からの支援への感謝を胸に、今日も配送のハンドルを握ります。彼らの挑戦こそが、能登の復興を力強く前進させる原動力となっています。

企業情報

カナカン株式会社 概要

  • 社名: カナカン株式会社
  • 本社所在地:920-0901 金沢市彦三町1-2-1 アソルティ金沢彦三5F
  • 創立: 昭和2128日(1946年)
  • 代表者: 代表取締役社長 谷口 英樹
  • 事業内容: 食料品・酒類卸売業
  • 主要営業品目: 和洋酒、輸入酒、各種食料品(瓶缶詰、調味料、乾物、冷凍食品、菓子、米穀、水産加工品など)、お惣菜の製造

ウェブサイト:https://www.kanakan.co.jp/company/outline/index.html


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