能登半島地震から復興へ。「みやけ食品」が繋いだ命の井戸水と卵の絆|七尾市

能登半島地震の発生から、一歩ずつ再生への道を歩む石川県七尾市。この地で産声を上げ、今や茶碗蒸しや玉子とうふの製造で全国屈指のシェアを誇るのが「有限会社みやけ食品」です。未曾有の災害に直面しながらも、自社工場の井戸水を地域住民に開放し、避難所へ栄養豊富な卵製品を届けた同社。

今回は、のと国分寺工場の中西氏、天井氏、稲農氏の3名に、発災直後の緊迫した状況から、地域と共に歩む企業の使命、そして未来への展望を詳しく伺いました。 

七尾から全国、そして「名水の里」へ広がる卵の絆

みやけ食品の歩みは、昭和15年に現社長の父・三宅勇二郎氏が七尾の市場で惣菜業を始めたことから始まりました。当初はポテトサラダやかまぼこを作っていたのですが、余剰となった卵を無駄にしないための工夫から生まれたオムレツや卵焼きが、現在の事業の礎となりました。

現在では、創業の地である石川県七尾市に加え、新潟、青森、北海道、広島、そして2年前に京都が新たに加わり全国6拠点のネットワークを誇ります。

グループの要、新潟県五泉市「名水工場」

みやけ食品の主力拠点となっているのが、新潟県五泉市にある名水工場です。阿賀野川水系の清流と豊かな山々に囲まれたこの工場では、その名の通り豊富な湧き水と新鮮な卵をふんだんに使い、玉子とうふや茶碗蒸し、チルドの卵焼きといった主力製品を生み出しています。

また、この工場は単なる製造拠点ではありません。卵製品を入れる容器の67割を自社生産し、全国の各工場へ供給する役割も担っています。手作業から自動化ラインへの切り替えなど、常に新しい技術にチャレンジし続けるグループの心臓部でもあります。

「ニワトリから容器まで」自社で責任を持つ一貫体制

同社の最大の強みは、養鶏から割卵(卵を割る作業)、製造、そして容器づくりまでをすべて自社グループ内で完結させる体制にあります。

秋田県に本社を置くグループ会社株式会社中条たまごをはじめ、グループ全体の農場を合わせると、約130万羽ものニワトリを飼育。さらに、新潟県では農業と商業を結びつけた6次産業化の取り組みとして、新鮮な卵やスイーツを販売する直売店も展開しています。

自分たちの目が届く場所で安全に育てた卵を使い自社で容器も作る。この最初から最後まで自分たちの手でというこだわりこそが、お客様に安心・安全を届けるための条件です。

地域を牽引し、社員を守る「健康経営」

こうした姿勢が認められ、経済産業省より地域経済の中心的な担い手となる地域未来牽引企業に選定。また、新潟工場での看護師の資格をもつ社員の常駐や、七尾工場での定期的な看護師訪問など、いしかわ健康経営宣言に基づいた社員の健康管理も徹底しています。まず働く私たちが健康でなければならないという想いが、企業の土台を支えているのです。

二つの工場を襲った試練と復旧への執念

202411日。竣工からわずか3ヶ月だったのと国分寺工場と、長年地域を支えてきた七尾工場が激震に襲われました。当日は休日でしたが、のと国分寺工場では出荷や事務業務のため数名の従業員が勤務しており、全員の無事は確認できたものの、現場はかつてない緊迫した状況に包まれたのです。

二つの工場が受けた被害状況

建物の構造自体に致命的な損傷は免れたものの、設備や周辺環境には多くの爪痕が残りました。

・七尾工場

資材倉庫の破損や一部の壁面崩落が発生。激しい揺れによって製造ラインの精密機械の位置がずれ、一部が排水溝に脱落しました。床にも亀裂や段差が生じ、細かな修復と精密な再調整なしには動かせない状態でした。

(写真提供:みやけ食品様)

 

・のと国分寺工場

建物本体は無事でしたが、駐車場に亀裂が走り、工場内の機械も揺れによる位置のズレが生じていました。 

生命線となった「井戸水」と安全への妥協なき姿勢

食品工場にとって、水は命です。七尾市内全域で断水が発生する中、みやけ食品には大きな強みがありました。工場に備わっていた20トンの貯水槽井戸水です。

ポンプや浄水設備が無事だったため、飲料水として利用できる水は確保できていました。しかし、ここで生産を水があるからすぐ再開とは考えませんでした。地盤の変化による水質への影響を懸念し、あえて保健所へ再度申請を行い、飲料適性の再認定を受けてから製造に乗り出したのです。この徹底した品質管理に、同社の誠実さが表れています。

通信寸断を乗り越えた「手書きFAX」の受注継続

もう一つの大きな壁は、インフラの遮断でした。のと国分寺工場では外部と繋がる光ケーブルが1本切断され、サーバーは動いていても、受注の柱である自動発注システムが使えない事態に陥ったのです。

光ケーブルが復旧されるまでの間、スマホのテザリングを駆使してメールを送り、注文は手書きのFAXや電話で受ける。そんな懸命な手作業による供給責任の継続が、全国の食卓への欠品を最小限に食い止めました。

グループの絆で掴んだ「3週間」の生産再開

七尾工場では自力での修繕を進めるとともに、新潟工場からの応援部隊も駆けつけました。機械の据え直しや安全確認を一丸となって迅速に進めた結果、発災からわずか3週間という異例の速さで本格的な生産再開にこぎつけたのです。 

命をつないだ「工場の井戸水」と「避難所への卵製品」

断水が続く七尾市内で、同社の支えとなった井戸水を地域住民へ開放することを決めました。

市内の水が止まる中、工場の外にある蛇口を24時間開放し、地域の方々に生活用水を提供したのです。

この支援は4月に水道が完全復旧するまで継続。口コミで広がり、地域の切実なニーズを救う命のラインとなりました。また、被災した従業員のために工場内に洗濯機を設置するなど、身内へのケアも行いました。

(写真提供:みやけ食品様)

避難所の栄養不足を救った茶碗蒸し

避難所に身を寄せていた社員から、避難所で食糧の支援物資が圧倒的に足りていないという切実な状況を耳にし、すぐさま自社製品の無償提供を決定しました。 卵は完全栄養食と呼ばれ、避難生活で不足しがちなタンパク質を補えます。みやけ食品は、市内の小学校や公共避難所へ、各所100ケースという規模で卵製品を無償提供しました。 賞味期限は十分にあるものの、業界独自の商習慣(3分の1ルール※)によって店頭に出せなくなってしまった製品も、こうした緊急時には何よりの宝物になります。避難所の方々の喜ぶ顔が、復興への原動力になりました。

(※納品期限の関係で通常の販売ルートに乗せられなくなった期限内製品のこと) 

深刻な人手不足と「食で応援」の輪

生産再開は果たしたものの、真の課題は、原材料にありました。

「被災した従業員の中には生活の基盤を失った者もいます。完全復旧と言える4月まで、稼働率は3割から5割に留まりました」。
さらに現在、能登北部から都市部へ若者が流出しており、地元での人材確保が難しい状態とのことです。

また、能登の素材にこだわった商品に使う、珠洲の塩いしるの仕入先も被災し、安定供給が危ぶまれる事態に。地域産業の連鎖の大切さを改めて痛感する出来事となりました。現在は、徐々に仕入も回復しています。

「食で応援」から生まれる新しい縁

そんな苦境の中、大きな支えとなったのが取引先からの温かい支援でした。生協などの取引先から、「食べて応援しよう」というPR支援が届いたのです。震災に負けずに頑張っている企業として紹介していただいたことで、新たなファンが増えました。 

震災を越えて強くなる。防災対策と社員への想い

震災を経て、みやけ食品の防災対策は強化されました。地震発生前から計画されていたソーラーパネルの設置も、20244月には完了。これにより、万が一再びライフラインが断たれるような事態が起きても、自律的に一部電力を確保できる体制が整いました

ハード面の強化だけでなく、働く仲間へのサポートもより手厚くなっているようです。今回見学させていただいた社員食堂では、社員の健康を考え、手作りのおにぎりなどのメニューが安価で提供されています。

まずはしっかり食べて、元気に働いてほしいという会社の温かな想いがおにぎりに込められていました。 

 

 

次世代を育む「地域に開かれた工場」

インタビュー後、工場内の見学通路をご案内いただきました。そこで目に飛び込んできたのは、可愛らしいキャラクターが描かれた解説パネルです。

「地元の山王小学校の児童が見学に来てくれるんですよ。難しい製造工程も、子供たちに楽しく理解してもらえるよう工夫しています」と中西氏。

今後はさらに多くの学校の子供たちに、食の大切さや地元の産業の魅力を伝える場として活用してほしいと願っています。

能登から全国へ、美味しさと元気を届ける未来へ

「七尾とのと国分寺の2工場は、北陸・関西・中部をカバーする基幹工場です。これからも能登の素材を活かした新商品を開発し、地域の企業様と手を取り合って能登を盛り上げていきたい」と商品開発課の稲農さんは話してくださいました。 

さらに、就業時間を8時〜17時の日中に集中させるためのライン自動化など、従業員がより働きやすい環境づくりという未来の工場像への挑戦も始まっています。

(写真提供:みやけ食品様)

 

 

震災時の支援活動をきっかけに、「あの時助けてもらったから、恩返しにここで働きたい」という入社希望が届く。それは、みやけ食品が長年築いてきた信頼の結晶です。

能登の豊かな水と、徹底して守り抜かれる卵の品質。みやけ食品は、これからも変わらぬ安心元気を届け続けます。

私たちの食卓に並ぶ茶碗蒸し一杯、卵焼き一切れ。そこには、震災を乗り越え、地域と共に生きる人々の想いが込められています。 

みやけ食品さんでは、

みやけ食品「のと国分寺工場」の“いま”を伝えるドキュメンタリー動画を作成されました。

以下のURLからぜひご覧ください。

https://youtu.be/AzbHLgetamM

 【商品紹介】みやけ食品の代表的なラインナップ

  • 茶碗蒸し(加賀屋料理長監修など):能登のいしる珠洲の塩が香る本格派。
  • 厚焼玉子・卵焼き:創業の原点。ふっくらジューシーなみやけの味
  • 玉子とうふ:新鮮な卵の旨味と、つるんとした喉ごしが楽しめる逸品。

企業詳細

株式会社みやけ食品

代表取締役社長 三宅 徳昌

【七尾本社工場】

住所:石川県七尾市千野町へ部18

TEL : 0767-52-1885

【のと国分寺工場】

住所:石川県七尾市八幡町ほ36番地

TEL0767-57-283

公式サイトhttps://www.miyakeshokuhin.co.jp


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