
能登半島地震から月日が流れ、少しずつ日常が戻りつつある場所もあれば、今もなお時間が止まったかのような景色が残る場所もあります 。そんな中、震災直後から被災者の心と体を温め続け、復興への大きな一歩を支えた施設があります。石川県羽咋(はくい)市にある「ユーフォリア千里浜」です 。
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「ユーフォリア千里浜」千里浜なぎさドライブウェイに隣接する癒やしの拠点
ユーフォリア千里浜は、日本で唯一、車で砂浜を走ることができる観光名所千里浜(ちりはま)なぎさドライブウェイのすぐそばに位置する日帰り温泉施設です。

ユーフォリア(Euphoria)とはイタリア語で幸福感を意味します。その名に違わず、地下1,000メートルから湧き出る琥珀色の天然温泉や、広々とした温水プール、リラクゼーションルームを備え、地元住民の憩いの場であると同時に、能登観光を終えた旅人が疲れを癒やす拠点としても愛されてきました。公共施設でありながら、民間企業が「指定管理者」として運営を担うことで、柔軟で活気あるサービスを提供しているのが特徴です。
しかし、2024年1月1日、この平和な拠点に未曾有の事態が襲いかかりました。
2024年1月1日。あの日、ユーフォリアで起きた奇跡
2024年1月1日、午後4時10分。最大震度7を記録した能登半島地震が発生したとき、施設はちょうどメンテナンスのために休業中でした。
支配人はすぐに現場にいたメンテナンススタッフと連絡を取り、館内の点検を指示しました。「築30年ということもあり、どこかの配管が破裂していてもおかしくなかったのですが、本当に少しの隙間ができた程度で、建物もボイラーも、奇跡的に致命的な被害がなかったのです」と支配人は振り返ります。
さらに大きかったのが、施設で使用している水が井戸水だったことです。羽咋市内の上水道が深刻な打撃を受ける中、地下から汲み上げる井戸水は無事でした 。
「飲み水やトイレの洗浄水は上水道だったので止まりましたが、お風呂に使うお湯は確保できる。その日のうちに『これならいける、お風呂を営業できる』と確信しました」

「能登の人間を誰一人見捨てるな」スピード決断の裏側
震災から2日後の1月3日。ユーフォリア千里浜は入浴支援として無料開放をスタートさせます。この驚くほどスピーディーな決断の背景には、過去の経験とトップの想いがありました。

実は1年ほど前、大規模な寒波による断水が起きた際、多くの方がお風呂を求めて施設に殺到したことがあったのです。「もし大きな災害が起きたら、必ずみんながお風呂を求めてやってくる」という確信が、支配人の中にはありました。
「当初は、運営会社が全額負担するつもりで無料開放を決めました 。市役所からは『市の施設なので羽咋市民に限定してはどうか』という打診もありましたが、支配人の上司である経営トップの決断は違いました。『そんなケチなことを言うな。今ここで断ったら、この先10年、20年と能登の人間に恨まれるぞ。能登の人はみんな受け入れろ』と一蹴したのです 」
この決断が、のちに能登全域からお風呂難民となって押し寄せる人々を救うことになります。
「タオルちょうだい」の一言で痛感
3日の朝、スタッフが出勤すると、玄関前にはオープンを待つ長い行列ができていました 。ある程度の想定はしていましたが、想定以上の人数をみて、改めてこの地震の被害の大きさを実感しました。

かつて、同じく羽咋市内にある観光スポット、宇宙科学館コスモアイル羽咋で大規模なイベント運営を経験していた支配人たちは、混乱を避けるために即座に整理券方式を導入。1回あたりの人数を把握し、待ち時間を明確にすることで、利用者の不安を和らげました。
その後も、現場の状況を見ながら、手探りで、利用者のニーズに合わせた支援の提供を続けられたのです。
「入浴に時間がかかる女性のために、午前中は男湯も女湯もすべて女性専用にするなど、状況に合わせて手探りで運営を変えていきました」
そんな中、支配人の心に深く刻まれている光景があります。

「利用者の方から『タオルちょうだい』と言われたんです。よく見れば、着の身着のままで避難してきた方々。家が壊れ、荷物を取りに帰ることもできず、タオル一枚すら持っていない 。その時、改めて自分たちは家があるけれど、この人たちは命からがらここへ来たんだ、と痛感しました。予備のタオルをすべて出し、無料で配りまくりましたよ」
その後も、タオルを寄付して下さる支援者の方が出て、しばらくタオルの無料配布は続けられたそうです。
善意のコミュニティーとして
また、施設は単なるお風呂以上の「助け合いの拠点」となりました。何か支援したいけど、どうしたらよいか分からないという方々に、支援活動をする場所の提供も行われたそうです。
ボランティアとして足もみ(マッサージ)を申し出る人や、水がなくて困っている人のためにお弁当を売りに来る業者など、多くの善意が集まりました。

※支援活動をされている当時のお写真は、ユーフォリア千里浜様からご提供頂きました。
公平さと苦悩、そして訪れた肩の荷が下りる瞬間
無料開放はその後、県の支援もあり長期にわたって続きました。しかし、運営は決して楽なことばかりではありませんでした。
整理券の配布については、最初は並ばれた方、一人1枚と決めていました。ところが、
「家族の分も」「近所の人に配るから」と整理券を何枚も欲しがる方への対応など、公平さを保つための葛藤は絶えなかったそうです。また、震災から時間が経つと、以前からの会員様から「いつまで被災者対応を続けるんだ、自分たちもゆっくり入りたい」という声も上がるようになり、対応に悩まれたそうです。
変化し続けるニーズ。支配人は羽咋市役所の担当者と毎日連絡を取り合い、利用者の数字を分析しながら、支配人は、その一つひとつに真摯に向き合い続けました。やがて、奥能登でも銭湯が再開し始め、自衛隊による入浴支援も各地で行われるようになると、少しずつ施設への集中も和らいでいきました。
「他の入浴施設が再開したというニュースを聞くたびに、少しずつ自分の肩の荷が下りるような、ホッとした気持ちになりました。最初は『自分たちが守るしかない』と必死でしたから 」
これからのユーフォリア千里浜が果たす役割
震災を経て、支配人はお風呂という存在の重要性を再定義しています。
「今までは、単なる憩いの場、安らぎの場だと思っていました。でも、家にお風呂があるのが当たり前の現代でも、災害が起きれば真っ先に求められるのはお風呂なんです。非常時に立ち上げるのではなく、普段から営業しているからこそ、いざという時に地域を守ることができる。日常の営業こそが、防災そのものなんだと感じました 」
最後に、この記事を読んでいる皆さんへのメッセージを伺いました。

「今でも、お客様から『あの時は本当にありがとう、助かったよ』と言われることがあります。でも、こちらこそ、あの時ユーフォリアを頼りにしてくれてありがとう、と言いたいんです。能登はまだ復興の最中です。新しい災害が起きると、過去の被災地は忘れられがちですが、どうか能登のことを、隅っこでいいから記憶に留めておいてください 」
「奇跡的に壊れなかったのは、お風呂を提供しろという使命だったのかも」と語る支配人の表情は、どこか穏やかで、それでいて力強いものでした。ユーフォリア千里浜の琥珀色のお湯は、これからも地域の、そして能登を訪れる人々の心と体を癒し続けます。
県外の皆様も、石川を訪れた際はぜひユーフォリア千里浜へ立ち寄ってみてください。あの極限の状態の中で、多くの人々を救った温もりが、今も変わらずそこにあります。
ユーフォリア千里浜の詳細についてはこちらから
企業詳細
ユーフォリア千里浜
住所:〒925-0054 石川県羽咋市千里浜町タ1番地67
TEL: 0767-22-9000 FAX:0767-22-9009
営業時間:9:30~21:30(受付はお風呂・プール 21:00まで)
休館日 毎週水曜日、1月1日

















