小川春生税理士が語る、能登で続けることの意味—震災を越えて、地域とともに歩む|七尾市

税金の計算だけが、税理士の仕事ではない——。七尾市で三代続く小川春生税理士事務所の代表・小川先生は、26年間にわたって地域の中小企業に寄り添ってきました。能登半島地震では自宅が半壊しながらも、15日には仕事を再開。「みんながいつも通りやっていれば、いつかはいつも通りに戻る」。そのひと言に、この地で生きてきた人の覚悟がにじんでいます。数字ではなく、商売の未来を一緒に考えてくれる存在として、地域の人々から頼られ続ける小川先生の想いをお聞きました。 

七尾の街に根ざした、三代続く税理士事務所

石川県七尾市の一角に、地域の中小企業を長年支え続けてきた税理士事務所があります。小川春生税理士事務所——三代にわたってこの地に事務所を構え、七尾市・中能登町・志賀町・羽咋市を中心に、多種多様な業種のお客様と向き合ってきました。

代表の小川先生が事務所に入ったのは22歳のとき。先代のもとで16年間経験を積み、急逝された先代のあとを継いで10年。この仕事と向き合い続けて、気づけば26年になります。「もともと七尾出身なので、ここで働くのは自然なことでした」——淡々とした口調の中に、長い時間をかけて積み上げてきた信頼と経験が滲み出ているようでした。 

税理士の仕事は「数字」だけじゃない

税理士といえば、税金の計算や申告をサポートするプロ——そんなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。でも小川先生が大切にしていることは、少し違うところにあります。

「お客さんは、とにかく税金を安くしてほしいと思いがちなんです。でも目先の節税が、長い目で見たら損になることはよくあります。そっちの方向に行かないように、全体を見るようにしています」

売上が落ちてきたとき、多くの経営者は経費を削ろうと考えがちです。でも小川先生は、そこでいったん一緒に立ち止まり、売上を増やす方向を一緒に考えます。数字の向こうに、その人の暮らしや商売の未来がある——それが小川先生の仕事への向き合い方です。税理士業務に加えて行政書士としての登録もしており、建設業許可の手続きや補助金相談まで、地域事業者にとって頼れる総合窓口のような存在です。 

元日、激震——それでも5日から仕事を始めた

202411日。能登半島を巨大地震が襲いました。

小川先生はその日、自宅にいました。自宅は半壊の被害を受けたものの幸い住み続けることができ、事務所も大きな構造的損傷はありませんでした。でも、水が止まってしまいます。

3月後半まで、水は使えなかったと思います」

事務所のトイレは、自宅の井戸水をポリタンクで運んで流す日々。それでも小川先生は、15日から仕事を再開しました。

「みんながいつも通りやっていれば、いつかはいつも通りに戻る。そう思っていました」

特別なことを言っているつもりはない、というトーンで話してくださいましたが、その言葉の裏には、長年地域に関わってきた人としての静かな覚悟があるように感じました。

水がないなりに、仕事を続けるお客様も多かったといいます。「水がないから仕事できない、という人もいましたが、井戸を持っている人や、なんとか調達できた人は、普通にやっていましたね」。七尾・能登の人たちの我慢強さを、改めて実感した瞬間だったと話してくれました。 

「なりわい補助金」をめぐる相談

震災後、小川先生のもとには、なりわい補助金(生業再建支援事業補助金)について多くの相談が寄せられました。補助金を巡っては全国からコンサルタントも集まり、高額な報酬を求めるケースもあったといいます。

実際にお客様との打ち合わせに同席し、「報酬が高すぎると感じたこともありました」と振り返る小川先生。そこで、地元金融機関の支援制度も紹介し、お客様が不要な負担を抱えない方法を一緒に考えてきました。

震災後はこうした相談対応も増えましたが、「続けることが大事」と静かに語ってくださいました。 

水が教えてくれたこと

震災を通して、小川先生が改めて実感したのは、の大切さでした。

「電気は来ていたのに、水が来なかった。そこで初めて、自分たちがどれだけ水を使っているかを知りました」

井戸水をポリタンクで運ぶ生活の中で、トイレを流すだけでも大量の水が必要だと痛感したといいます。7人家族では、備蓄だけで乗り切る難しさも感じました。

「阪神・淡路や東日本でも同じ問題があったはずなのに、あまり語られていない。それが不思議でした」

だからこそ小川先生は、防災は備蓄だけでは限界があり、人や機能を一極集中させない社会づくりも必要だと考えています。 

奥能登の未来——「諦める」か「目的を作る」か

地震後、奥能登から人が減り続けています。このまま放っておけば、20年後には原野になってしまうかもしれない——小川先生はそう率直に話してくれました。

「半島は行き止まりだから、目的がないと人は来ない。じゃあ目的を作るしかない」

大切なのは、人が「わざわざ行きたい」と思える目的をつくること。道路が整備され、商売が生まれ、人が集まる——そんな連鎖を生み出せるような、強い核となるものが奥能登には必要だと言います。「それか、もう原野でいいと諦めるか。この二択だと思っています」

厳しいようで、でも小川先生の言葉の根底には、地域への深い愛着が感じられます。

「自分一人が頑張ってもどうしようもないけれど、地域というのは人の集合体。一人ひとりがちょっとずつ頑張り始めれば、地域は上を向いていく」

そして、若い世代へこんなメッセージも届けてくれました。

「子どもを都会に出すのをやめてほしい——とまでは言わないけれど、出て行っても帰ってきてね、という気持ちをみんなが持ち続けることが大事だと思う。都会で家を買って結婚して、という生活が本当に幸せかどうか。月に1回、新幹線で東京に遊びに行く生活の方が、よっぽど豊かじゃないかと、私は思っています」

自身も名古屋での生活を経てUターンしてきた経験から出る言葉。だからこそ、胸に響きます。 

AIが来ても、「相談できる人」の価値は変わらない

税理士の仕事にも、AIの波が押し寄せています。小川先生はその変化を素直に受け止めています。

「仕事の量は減っていくと思います。計算や書類の作成はAIがどんどん得意になっていくから」

でも、だからこそ大切にしたいことがある、と言います。

「お客さんが全部AIに相談して、それで終わりかというと、そうじゃないと思う。悩みを聞いてもらいたい、気軽に電話できる相手が欲しい——そういう需要はなくならないと思うんです」

面と向かって話し、顔を見て、気持ちを読む。そこにこそ、人としてかかわる価値があります。小川先生が目指すのは、地域に根ざした相談相手としての税理士像です。 

全国のみなさんへ——「地震が終わった能登」へ、ぜひ来てください

最後に、全国の方々へ向けて、こんな言葉を贈ってくれました。

「能登で1000年に1度の地震が起きた。でも日本中、地震のリスクはどこにでもある。だったら今、能登に来てみてはどうでしょう。食べ物は美味しいし、海は美しいですよ」

地震が起きた能登ではなく、地震が終わった能登——。その小さな視点の転換が、足を踏み出す一歩を、きっと軽くしてくれるはずです。

26年間、この地で税理士として地域の商売人たちを支え続けてきた小川先生。その言葉の奥には、揺るぎない地域への愛と、静かな誇りが宿っています。能登はまだここにある。そして、ここで頑張り続ける人たちがいる。訪ねてみたくなりませんか。 

企業詳細

小川春生税理士事務所

住所 石川県七尾市つつじが浜3-31

TEL 0767-53-6400


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