リバイブの精神が灯す能登の未来「能登ミルク」 | 七尾市

能登半島地震からの復興を目指し、力強く歩みを進める企業のご紹介として、今回お話を伺ったのは、上質な乳製品を通じて能登の魅力を全国に発信し続ける能登ミルク代表取締役、堀川昇吾さんです。

和倉の自宅は全壊という甚大な被害に遭いながらも、堀川さんが掲げたのは「リバイブ(再生)」という言葉。決して「頑張れ」ではなく、被災前より美しく、より強く生まれ変わるという信念のもと、事業と地域復興の道を切り拓いています。その力強い歩みと、能登の未来にかける熱い想いを伺いました。

能登の礎を築く哲学と、震災直後の決断

酪農家の想いを繋ぎ、能登の価値を高める事業

能登ミルクは、能登の酪農家が生産する生乳を用いた牛乳やアイスクリームなどの乳製品を製造・販売しています。道の駅、レストランはもちろん、東京の店舗や、日本国内のゴディバの一部店舗でも使用されるなど、その品質は高く評価されています。

堀川さんが事業の土台として大切にしてきたのが、能登の1次産業を守り育むという強い想いです。

「今、能登には6軒の酪農家さんがいます。能登で採れたミルクは、できる限りすべて能登ミルクで引き取りたい。そうすれば酪農家さんは、自分の育てた牛の乳がどこでどのように使われているかを知ることができ、それがモチベーションとなり、品質向上にも繋がります。能登の酪農を、地域全体で支えていきたいのです」

そして、営業する上で最も大切にするのは「適正価格で売る」こと。「高い商品を安くして売るのではなく、自分で汗を流し、苦労して作り上げたものにふさわしい価格で、胸を張って売っていく。これが能登の素材の価値を高め、1次産業を守ることになります」。この哲学こそが、能登ミルクの事業を支える核となっています。

店舗のシンボルであるランプシェードは、堀川さんの祖父が酪農をしていた時代に使われていたミルク缶を再利用したもの。凸凹した缶には、足で蹴って動かしていた当時の苦労の跡が残っています。過去の歴史への敬意と、能登の酪農への強い愛着が込められています。

「傷跡は残さない」苦痛だった「頑張れ」の言葉

2024年11日、堀川さんは和倉のご自宅で被災されました。ご家族全員が無事だったものの、生まれ育ったご自宅は全壊。津波警報から車で高台へ避難し、約2,000人が集まった和倉小学校で夜を明かしました。この時、和倉温泉を代表する旅館・加賀屋さんが夜な夜な台車で寝具や物資を運ぶ姿を見て、被災時でも変わらない「おもてなしの心」に感動したと言います。

店舗自体に大きな被害はなかったものの、隣のビルが傾き、敷地にも影響が及ぶ危険な状態となりました。

堀川さんが発災後にまず取り組んだのは、卸先に迷惑をかけないよう、年末年始のストック商品を発送することでした。流通を止めないことに専念し、事業を継続する活路を見出します。

しかし、精神的には大きな困難に直面しました。 「一番困ったのは、精神的に『頑張ろう』『頑張って』と言われることでした。こちらはすでに精一杯頑張っている。これ以上、もっと頑張れと言われているような気持になりました。 私は『リバイブ(復活)』という言葉を使っています。復活の先に、希望があるからです」

そして店舗の修繕にあたっては、「被災前よりきれいにする。傷跡は残さない」と決意。床のヒビや敷地を丁寧に修繕し、現在の店舗は被災前と変わらない、むしろより美しい姿で再オープンを果たしました。

備えは「その時々の最善」を尽くすこと

事業継続の備えについて冷静に当時を振り返っていただくと、「あれをやっておけば良かったということは一切ない」と堀川さんは断言します。「いつもその時その時の最善をつくしている。やっておけばよかったことが、私には思い浮かばないんです」。

常に今、最大限の力を尽くすという堀川さんの姿勢こそが、能登ミルクの強靭な精神性を表しています。

心の支えと未来への強い覚悟

心に響いた「人の助け」と家族の存在

発災後、数多くの支援がありました。堀川さんは、「こういった有事に深い人間性を知ることができました」と振り返ります。

特に心に残っているのは、「毎日、金沢から物資を運んでくれた人がいたこと。何度遠慮しても毎日来てくれました。その方には足を向けて寝れないほど感謝しています」と語ります。金銭や物資だけでなく、人の助けが心を支えとなりました。

そして、最も大きな支えとなったのは家族でした。「家族がいなかったら、心が折れていた。家族がいたからこそ、ここまでやってこられたんです」。

能登再生への提言

現在の和倉の復興状況について堀川さんは、「少しずつ良くなっていっているのではないか。計画も進んでいる」と見ています。しかし、能登全体の復興には、和倉温泉が中心として機能し、加賀屋さんの存在が不可欠だと強調します。

一方で、現状への率直な思いも口にされました。 「みんな『大変ね』『大変だ』と言い過ぎではないでしょうか。そんなことはもうわかっているんです。」

堀川さんは、厳しい現状を共有するだけでなく、能動的に未来を創造していくことこそが重要だと考えています。

人のお金はあてにならない。自分で汗を流して苦労して作り上げたものに価値がある。高い商品を安くして売るのはだめ。適正価格で胸を張って売っていくことが、能登の復興に繋がる」

この言葉には、支援に依存せず、自立した事業で地域経済を牽引していくという強い覚悟が込められています。

能登の未来へ—1次産業と6次産業の融合

能登の若者を迎え入れる土壌作り

今回の震災という大きな困難を経験した上で、堀川さんが今後能登で担っていきたい役割、そして事業を通しての地域貢献の目標は明確です。

「能登には、やはり1次産業が大事。今こそ転換期ではないでしょうか。若い人が参入できるような土壌を作っていかなければならない」

そして、能登の価値を高めるために、6次産業への発展を加速させたいと語ります。様々な分野とのコラボレーションを進め、能登ミルクのブランド力をさらに向上させていくことが目標です。

その根底にあるのは、生産者への敬意です。 「例えば、いちじくのジェラートも、いちじくをセミドライにすることで食感と味を大切にしています。農家さんも努力しているんです。お互い美味しく食べるために努力しあう。こっちが本気を出すと、相手も本気になるんです」

能登ミルクでは、能登の1次産業を守り、適正価格で胸を張って発信していくという哲学を貫きます。能登ミルクの活動と製品が、被災前よりも良い地域になるという『リバイブ』の希望を灯す一歩となるよう、日々努力を続けます。

被災直後のストック商品が尽き、水も出ないという極限の状況を乗り越え、金沢市での臨時店舗を経て、2024427日には和倉の店舗を再オープンした能登ミルク。堀川さんが貫く「傷跡を残さない」美しさと、「リバイブ」の精神は、能登の新たな再生を明るく照らしています。

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企業詳細 

能登ミルクファクトリー
住所 :石川県七尾市和倉町ワ部13ー6
連絡先 :0767-62-2077
定休日 :水・木曜日
営業時間 :9時~17時


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