能登半島地震からの復旧~有限会社寿産業が支える七尾のライフラインとこれから|七尾市

水が出ること。お風呂に入れること。ガスが使えること。
何気ない毎日の当たり前は、地域の暮らしを支える仕事があってこそ保たれています。
七尾市で長くインフラを支えてきた有限会社寿産業。管工事や土木工事を中心に、目立たないけれど欠かせない仕事を積み重ねてきました。今回お話を伺ったのは、取締役の中出信行さん。震災当時のこと、その後の復旧作業、そして能登のこれからについて、率直な言葉で語ってくださいました。
その言葉から伝わってきたのは、地域で暮らす人の毎日に寄り添いたいという思いと、能登の未来をあきらめたくないという、まっすぐな気持ちでした。 

地域の暮らしを足元から支えてきた会社

有限会社寿産業が設立されたのは昭和46年。もともとはガス設備に関わる仕事から始まり、能登地区でガス機器のサービス指定店として地域に根ざしてきました。そこから時代の流れや地域のニーズに合わせて事業の幅を広げ、現在は管工事、土木工事、電気工事を手がけています。なかでも中心となっているのは、管工事と土木工事です。現場の多くは七尾市内にあり、地域とともに歩んできました。

震災の日、突然変わってしまった日常

能登半島地震が起きたとき、中出さんは自宅にいました。ご家族は旅行中で、家には中出さんと会長であるお父さまの二人だけ。大きな揺れのあと、津波警報を受けて高台へ向かったものの、道路は渋滞し、一旦自宅へ戻られたそうです。
夜になって会社へ行くと、事務所の中は本棚が倒れ、書類も散乱していました。自宅では停電が続き、楽しみにしていたおせちや冷蔵庫の中の食材もだめになってしまったそうです。そんな出来事も中出さんは少し笑いを交えながら話してくださいましたが、突然日常を失う戸惑いや悔しさは、決して小さなものではなかったはずです。

それでも気持ちはすぐに地域へ向かいました。ガスを使っているお客さまは大丈夫だろうか。まずは和倉のほうへ向かおうとしたものの、道路の被害が大きく、思うように進めなかったといいます。助けに行きたくても、すぐには動けない。そのもどかしさもまた、被災直後の現実でした。 

1月2日から始まった復旧作業

震災の翌日には、市役所から連絡が入ったそうです。市内で断水が起こっているためすぐに修理に行けるように準備をしておいて欲しい、ガス漏れの点検に回ってほしい。そこから、寿産業の復旧作業が一気に始まりました。
ガスの点検では、親会社にも応援を依頼し、複数の班で地域を回りました。一軒一軒、安全を確かめながら進めた結果、1月半ばにはガスの復旧を終えることができたといいます。とても早い対応ですが、ガスが直っても、水が来なければお風呂にも入れない。現場にいたからこそ見えていた現実でした。
印象的だったのが、会社の井戸の話でした。震災直後、会社は井戸水を使用していました。中出さんは周りの人たちに「うちに風呂入りに来ていいよ」と声をかけたそうです。少しでも力になりたいという思いからでした。ところが、その井戸もそもそも地震で崩れており、使えたのはタンクに残っていた水だけでした。会社もやがて断水状態になってしまいました。
人の家の水回りを直しに走りながら、自分たちの会社では水が出ない。この地域では、元々水道がなく井戸がないと水が使えない状況でした。新たな井戸が完成したのは翌年の春でした。それまでは、ほかの場所から水を分けてもらい、タンクで運びながらしのいでいたそうです。地域のために動きながらも、自分たちもまた被災のただ中にいたことが、静かに伝わってきました。 

洗濯できる場所を整えるという支援

震災後、中出さんたちは別の形でも地域の役に立っていました。奥様が営むコインランドリーで、行政の給水車に水を運んでもらい、寿産業の設備でポンプを動かし、洗濯できる環境を整えたのです。
本当なら無料にしたい気持ちもあったのですが、コインランドリーの仕組み上、最低でも100円を入れる必要があったのです。七尾店でも和倉店でも、その料金で水道が復旧するまで利用できるようにしたことで、多くの人が助けられました。「本当に100円でいいんですか」と驚きながら感謝してくれる人も多かったそうです。
断水が続く中で、洗濯ができる場所があることは、想像以上に大きな支えになります。食べることや眠ることだけでなく、清潔な衣類で過ごせることもまた、人の心を整える大切なことなのだと感じさせられます。 

まだ終わっていない復旧の現場

中出さんは、復興という言葉に少し距離を置いています。世の中では復興と呼ばれていても、現場の感覚では、まだ復旧の途中だと感じているからです。今もなお、被災した家の配管や下水の工事は続いており、人手不足の中で対応に追われる日々。通常の仕事に戻ったとは言えない状況が続いています。
さらに、奥能登豪雨災害で被害を受けた地域への応援要請もありました。自分たちの地域もまだ十分に立て直せていない中で、別の被災地の支援にも向かわなければならない。限られた人数で地域のインフラを保つ難しさが、そこにはありました。
だからこそ中出さんは、ただ元どおりに戻すだけではなく、これからの能登の暮らし方そのものを考え直す必要があるのではないかと感じています。 

能登の未来に、もう一度夢を描くために

中出さんが語る能登の未来には、厳しい現実を見つめた先の希望があります。人や機能が集まる拠点をつくり、そこを中心に暮らしをつないでいくこと。病院や生活に必要な施設も含めて、無理のない形で地域をまとめていくこと。そうした考え方は、復旧の最前線に立ってきた人だからこその視点なのだと思います。
一方で、未来の話は決して堅いものばかりではありません。和倉温泉が元気を取り戻すこと。農林水産業をもっと強くし、加工やサービスと結びつけながら地域の魅力を育てていくこと。自然を生かした観光や、若い人が行ってみたいと思える仕掛けが必要だという話も印象的でした。
地域を守ることと、地域を楽しめる場所にすること。その両方があってこそ、能登の未来はもっと明るくなる。中出さんの言葉には、そんな思いが込められていました。 

人がいるから、地域は続いていく

取材の最後に中出さんがまっすぐ口にしたのは、「働きに来てほしい」という言葉でした。人手不足は深刻で、事業承継の悩みもあります。それでも、社員の暮らしを守りたい、地域のインフラを保っていきたいという思いは変わりません。
地方では、後継者不足や担い手不足がますます大きな課題になっています。寿産業もその現実の中にありますが、中出さんの言葉からは悲観だけではなく、まだ誰かと一緒に未来をつくっていきたいという願いが感じられました。
水が出ることも、道が使えることも、安心して暮らせることも、誰かの仕事の上に成り立っています。寿産業が担っているのは、設備や配管だけではありません。能登で暮らす人たちの、日々の生活そのものです。
中出信行さんのお話から見えてきたのは、地域に必要とされる仕事の重みと、その先にある温かな希望でした。能登の暮らしに寄り添う人がいること。その確かさが、これからの地域を照らしていくのだと思います。

有限会社 寿産業 企業詳細

住所 石川県七尾市万行町5部129番地16

TEL 0767-52-2251

事業内容 管工事、土木工事、電気工事

 


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