
能登半島地震の発生から、一歩ずつ再生への道を歩む石川県七尾市。この地で30年以上にわたって地域の人々のカーライフを支えてきたのが、ジョイカル七尾店(株式会社アウトバーン)です。
震災当日、遠く離れた場所で揺れを感じながら、地元を思い続けた2代目社長・小林祐樹さん。帰路が断たれる中でも七尾へ戻り、夜中まで鳴り止まないロードサービスの電話に向き合い続けた日々。そして、ようやく落ち着きを取り戻した頃には、新しいチャレンジへと踏み出していました。
今回は、発災直後の緊迫した状況から、地域と共に歩む企業としての使命、そして未来への想いを、小林社長に詳しく伺いました。
Contents
繊維から車へ。そして「お客様の笑顔」を旗印に

ジョイカル七尾店の前身である株式会社アウトバーンの創業は、平成5年(1993年)です。
創業者であるお父様は、もともと繊維関係の機械を売る営業マンでした。かつて能登は繊維産業が盛んな地域でしたが、業界の先行きに不安を感じ、自動車販売という全く新しいフィールドへと踏み出したのです。
アウトバーンという社名はドイツの高速道路から。メルセデス・ベンツやBMW、アウディといった輸入車を中心に販売をスタートし、地域に少なかったヨーロッパ車の文化を七尾に根付かせてきました。
その事業を受け継いだのが、現社長の小林祐樹さん。整備士の資格を取得し、金沢での実務経験を積んだのち、12年前に家業を引き継ぎました。
「引き継いでから、すぐにうまくいったわけじゃないんです。軌道に乗るまで4〜5年はかかりました」と小林社長は苦笑い混じりに振り返ります。
その苦労の時間の中で、小林社長が自分自身に問いかけたました。「この会社は、何のために存在するのか」。その時、ぱっと頭に浮かんだのがお客様の笑顔でした。
そして生まれた企業理念がこちらです。
お客様の笑顔を追求し、新しいことに挑戦し続け、地域に貢献できる企業
「お客様の笑顔のためには、まず従業員が笑顔でないといけない。その両方を実現することが、今も一番大切にしていることです」
この理念を胸に、個人向けカーリースも取り扱うジョイカルを導入し、販売・整備・ロードサービスと事業の幅を広げながら、今の形へと成長してきました。
あの日、長野から能登を想い続けた
2024年1月1日。小林社長は家族と年始を過ごしていた長野県で、午後4時過ぎの激しい揺れに襲われました。「2度目の揺れで異変を確信しました。長野でもこれほど揺れるなら、広範囲で甚大な被害が出ているはずだと」
テレビに映る現地の惨状に衝撃を受けながらも、すぐさま従業員の安否確認に。また、映像で甚大な被害が報じられていた妻の実家・珠洲市の状況を案じ、繋がりにくい電話をかけ、ようやく無事を確認できたときは、安堵したと振り返ります。
翌日、北陸自動車道の一部が通行止めとなるなか、通行可能なルートを慎重に探し、七尾へ戻りました。「道路事情がとにかく大変で、それが一番の障壁だった」と語る小林社長。

夜中まで鳴り止まない電話との戦い
七尾に戻った途端、怒濤の日々が始まりました。
同社が手がけるロードサービス部門に、問い合わせが殺到したのです。
「ロードサービス専用の携帯があって、そこに連絡がどんどん入るんです」
特に激しかった最初の1週間、その後も1か月近く慌ただしい状況が続きました。震災直後は、通常なら往復1時間で済む七尾市内のロードサービスも6時間かかったそうです。珠洲・輪島方面へ向かう途中には、対向車線を埋める緊急車両の列が続いていたといいます。帰り道にも何台もの緊急車両とすれ違い、「こんなにも多くの人が能登のために動いてくれているんだ」と、走りながら胸が熱くなったそうです。
その後、2024年9月の豪雨災害でも、泥に埋まってしまった車の救出対応に追われました。地震だけでは終わらなかった能登の試練。それでも小林社長は、できることを一つひとつ、丁寧にこなし続けました。その日々の積み重ねが、どれほど多くの方の支えになったことか。
「仕事がしたくてもできない」──ネット断絶という見えない壁
ロードサービスの多忙さと並行して、通常営業の再開にも難題がありました。
「うちのシステムは全部ネットで動いています。基幹システムも、伝票を出すのも、全部ネット経由なんです。それが使えなくなって、やりたくても仕事ができない状態になってしまって」
一刻も早く業務を再開したいということで、モバイルルーターを購入し、なんとか環境を整えました。
困難なことはありましたが、良いこともありました。店舗の構造が、同社を救うことになります。震災のわずか半年前に完成したばかりの新店舗は、設計士さんの強い勧めで軽量鉄骨から重量鉄骨への変更を決めていたのです。
「設計士さんに、何年もここでやるなら、地震のことを考えて重量鉄骨にしたほうがいいと言われたんです。あの時の判断が、本当によかった。店舗は、ほぼ無傷でした」
ここは、ライフランも早く水道は1、2日で復旧でき、早期の営業再開につながりました。
周りのお店が大変な状況にある中で、稼働し続けられたことへの感謝が、小林社長の言葉の端々から伝わってきます。

お客様の「困った」に、できる限り向き合う
震災後、お客様の状況も様々でした。
月々払いのカーリースを利用されていたお客様の中には、車を失っても残債が残り、次の車を購入したくても審査が通らないという方もいらっしゃいました。
「家も壊れている、車も用意できない、買うこともできない。そういう状況の方がいらっしゃって……そこは本当に厳しかったですね」
地震・津波被害を受けた方は、車両保険に入っていても、地震・津波による被害には適用されないという現実も突きつけられました。
それでも小林社長は、就任時に掲げた企業理念の原点であるお客様の笑顔を追求するという気持ちを、震災後も曲げませんでした。震災直後しばらくの間、お客様へ軽トラの無料貸し出しをしました。車検については、独自に復興割を設定し、定額でのサービスを展開。売り上げより、まず目の前のお客様のために何ができるかを考え続けたのです。
「その時期はプラスにはならなかったです。でも、翌年度からは業績も回復して、プラスで期を終えることができました」と、小林社長はそっと笑顔を見せてくれました。
「ジョイカル」「マッハ車検」、そして輸入車整備──能登唯一の強みを束ねて
まず同社の大きな柱となっているのが、個人向けカーリース「ジョイカル」です。月々定額で新車に乗れるこの仕組みは、全メーカー・全車種に対応しています。「こんな車が欲しい」というご相談から気軽に始めていただけるのが魅力です。
「能登ではまだ知らない方も多くて。地元商業施設に出展したとき、予想以上に知らなかったという声が多くて……やっぱりもっと知ってもらいたいと思いました」
5年以内に奥能登方面へも広げながら、「能登の人なら誰もがジョイカルを知っている」という状態を目指したい。その言葉には、地域への深い愛情が滲んでいました。
また、震災からの復旧とともに新たに導入したのがマッハ車検です。車検の間、待合スペースのモニターで進行状況をリアルタイム確認。悪い箇所はその場でお見せし、必須、おすすめ、問題なしの3色で分かりやすく説明したうえで見積もりを提示します。代車不要で経費を抑えた分、地域最安水準の料金を実現しています。
そしてもう一つ、能登では他に類を見ない強みがあります。輸入車の整備です。創業当初からメルセデス・ベンツやBMWなどを扱ってきた経験と技術が今も生きており、輸入車オーナーがディーラーまで遠出せずに地元で相談・整備を依頼できるのは、能登ではここだけ。長年のお客様から厚い信頼を寄せられている、この店ならではの財産です。

父と母への、言葉にできない感謝
取材の終盤、小林社長が話してくれたのが、ご両親のことでした。
ロードサービス事業を長年支えてきたのは、お父様です。24時間365日、休みなくほぼ毎日対応し続けてくださっているといいます。震災後も、小林社長が手いっぱいになる中、お父様がロードサービスの最前線を担い続けてくれました。
「ロードサービスに関しては、父が担ってくれています。自分なんか比ではないくらい、父がほぼ毎日、夜中も全て対応してくれていて……70歳を過ぎているのに、本当に頭が下がります。感謝しかないです」と、小林社長は語ります。
震災が変えた、感謝の深さ
「震災後、考え方は変わりましたね。感謝の気持ちが、ずっと増えました」
発災直後から、県外の緊急車両が次々と能登へ入ってきました。その対応の速さと、その数の多さに、小林社長は深く感動したといいます。
「輪島市の広場には、相当な数の緊急車両が集まっていて。こんなにも多くの人が、能登のために動いてくれているんだって……」
その経験が、ある決意を生みました。
「次にどこかで災害が起きたとき、今度は自分が支援に行きたい。相当な数の車を救出・搬送しなければならない状況があるはず、ロードサービスや修理という、自分にできることで役に立てたら、と思っています」
受けた恩を、次の誰かへ。そのまっすぐな気持ちが、とても温かく心に響きました。
全国の皆さんへ──能登から届けたい言葉
最後に、全国の皆さんへのメッセージをお願いしました。
「防災の準備は、しておいてほしいと思います。でも、正直なことを言うと、自分も東日本大震災をニュースで見ていて、今回の地震よりもっとひどいことを知っていたのに、準備できていなかったんです。やっぱり自分の身に降りかからないと、なかなかできないのかな、とも思う」経験した人間だからこそ言える、正直な言葉かもしれません。
「復興へ向かう能登の姿を、ずっと見ていてほしいです。そして、ぜひ能登に訪れて、何かを感じていただけたら」。
震災を経て、感謝の気持ちが深まった。緊急車両に助けられた経験が、次は誰かを助けたいという気持ちに変わった。その変化は、小林社長だけのものではなく、能登で生きる多くの人たちに共通するものかもしれません。
地域の車と暮らしを守り続けながら、能登の未来を前向きに切り開いていくジョイカル七尾店の歩みを、これからもぜひ応援してください。

店舗情報
ジョイカル七尾店(株式会社アウトバーン)
住所 石川県七尾市飯川町け部40番地
TEL 0767-57-8800
営業時間 9:30~18:00
定休日 月曜日・祝日・第5日曜日
事業内容 自動車販売/自動車修理・車検(マッハ車検)/
個人カーリース(ジョイカル)/ロードサービス(24時間365日対応)
会社HP https://www.outobahnishikawa.net/

















