能登で走り続ける——ホンダ販売スギフジが守るアフターサービスと地域への誓い|七尾市

石川県七尾市に、定休日のないホンダカーズがあります。

お盆、ゴールデンウィーク、年末年始以外はシャッターを開け、地域のカーライフを支え続けているのが、株式会社ホンダ販売スギフジ(ホンダカーズ七尾中央)の代表・杉藤隆志さん。年間約340日、11516時間。そのひたむきな働き方の根底にあるのは、「経営ミスを絶対にしたくない」という静かな覚悟と、お客様あっての仕事という揺るぎない信念です。

能登半島地震という未曾有の災害を経験したいまも、この会社は前を向いて走り続けています。 

二代目として受け継いだもの

杉藤社長は、もともと佐川急便に勤めていましたが、出入り先だったこの会社の先代の娘さんと知り合い、24歳で結婚。2年後の26歳で家業へ入りました。

先代が始めた事業のルーツは、ホンダのバイクと自動車の卸売り代理店に勤務。当時はディーラー制度がなく、地元の二輪販売店が自動車も扱っていましたが、やがてホンダが自動車販売店のディーラー制を導入する際、先代は迷わず手を挙げたそう。「ホンダが好きだから」——そのシンプルな動機が、すべての始まりでした。

先代から引き継いだのは300坪の土地と会社。それが今では2000坪を超える敷地へと広がり、新車・中古車の販売から車検・整備はもちろん、保険やタイヤ預かり、ロードサービス、レンタカーまで——車に関わること全部をカバーする地域密着型の自動車会社へと成長を遂げました。 

定休日なしが生む、圧倒的なアフターサービス

「よそのディーラーと何が違うか、と聞かれたら、一番大きな違いはアフターサービスのクオリティです」

石川県内のホンダディーラーで定休日なしを貫いているのは、ここだけ。先代から受け継いだこの方針が、地域の信頼を長年にわたって積み重ねてきました。

2000坪超の広大な敷地には、常時3040台の中古車在庫、試乗車や代車、レンタカーを合わせると100台以上の車両を保有。車に関することなら何でも対応できる体制を整えています。広い土地があるからこそ実現できる、地域最大級のキャパシティです。

スタッフは交代でしっかり休みを取りながら、業務の引き継ぎはシステムで管理。全店舗に設置した監視カメラで、離れた場所からでもリアルタイムに現場を確認し、指示を出せる仕組みも整えています。社長からの指示がきちんと社員へ届いているか確認できように、見える化にこだわり、社長自身も現場に立ち続けるのです。

震災当日——アキレス腱を切って、それでも動いた

202411日、能登半島地震が発生しました。

杉藤社長は七尾の店舗兼自宅にいました。揺れが収まるや否や、被害状況を確認しようと階段を駆け下りたその瞬間——踏み外して、アキレス腱を断裂してしまいます。

倉庫の中では、試乗車同士がぶつかり合い、棚はすべて倒れたまま。救急病院は救急以外受付してもらえず、市内の整形外科は休みで社長は痛みをこらえながら、2日・3日・4日の3日間、ほぼ一人で現状復帰を行いました。

「座りながら少しずつ、だんだん立っていられなくなって。でも5日から仕事できるようにしないといけなかったから」

自分でできることは自分でやる——その姿勢が、体に染みついているのだと感じます。

(写真提供:ホンダ販売スギフジ様より)

15日、営業再開。そして仲間への支援

15日に市内の整形外科に行きましたが、断水で手術もできない為、ギプス固定での治療を選択し松葉杖をつきながら会社に戻りました。

通常営業を再開した直後から問い合わせが殺到。

道路の段差やがれきでタイヤをパンクさせた車、路肩にはまった車、津波で水没した車など、ロードサービスの電話が鳴り止みません。八幡店に2台、大津店に1台ある積載車(自動車運搬車)計3台をフル稼働させ、地域を奔走しました。

全国のホンダ販売店から集まった支援金は、会社の利益にするのではなく、全社員に均等に分配。地震で自宅が全壊した社員が2名いたこともあり、「一番困っているのは社員たちだから」という想いからでした。その言葉に、杉藤社長の人柄がにじみ出ています。

震災関連の対応が落ち着くまで、約1年。長い1年でした。

自社も被災者でありながら、9月の奥能登豪雨により水没の被害を受けた奥能登のホンダカーズ販売店に対しては、代車として使える車両を7台、無償で譲渡しました。

「うちも次の入れ替えのタイミングだったし、一番困っていることが代車不足だとわかっていたから」

打算のない、仲間への自然な行動でした。 

震災を機に、拠点をさらに強くする

震災の影響により、建物の老朽化や地盤沈下が深刻だった志賀センターは閉鎖を決断。経営資源を八幡店と大津店の2拠点に集約し、より強固な経営体制へと舵を切りました。

その八幡店では現在、大規模なリニューアルに向けた準備が進められています。床と建物が傾いたままの工場棟は、なりわい補助金を活用して新築する計画が進行中です。さらに、総額3,000万円規模となる最新鋭の車検設備の導入も予定しています。

4WD車の車両を移動させることなくスピードメーター検査と4輪同時にブレーキ検査を計測できるテスターや、ヘッドライト左右の測定を上下左右自動に移動して測定するテスターなどを導入し、作業時間の短縮と受け入れ台数の増加を目指しています。被害を受けた拠点を、震災前よりもさらに強い店舗へと生まれ変わらせようという意気込みが伝わってきます。

「儲かってから投資するのではなく、儲かる前にやる」

その挑戦する姿勢は、震災を経ても変わることはありません。

「三流経営者」と笑いながら、誰よりも動く社長

「三流経営者は自分で動く。二流は社員を動かす。一流は頭を使う」と、杉藤社長は笑いながら話してくれました。「だから私は三流です」。

でも、その言葉の裏側には深い意図があります。「時は金なり、人の倍働くと見える景色が違うんです」。自分が現場を把握していれば、投資の判断が早くできる。社員が「できません」と言っても「できるから」と実証できる。現場が見えていれば、改善点もすぐに見つかる。「誰よりも自分に一番厳しく、自分を甘やかさない」すべては、現場に立ち続けることから始まるのです。

工場にはエアコンを設置し、作業効率のよい電動工具に切り替え、洗車機も早くから導入しました。「従業員にも楽に働いてほしい。設備投資は、儲かる前にやるもの」というのが持論。自分にプレッシャーをかけながら収益を上げ、その利益を設備と人に還元し、また効率を上げていく——その好循環を、自分が現場を走り回ることで回し続けています。

能登の未来へ——新事業と業界再編という挑戦

前を向く杉藤社長の目には、すでに次の景色が見えています。

ひとつは、無人レンタカー事業の展開。スマートフォンのアプリで予約、解錠し、ダッシュボードの鍵を取って出発する仕組みは、駅前の好立地さえ確保できれば実現できます。管理コストを抑えながら需要に応えられる、新しい収益の柱です。

もうひとつは、地域の自動車業界の再編。後継者不在で廃業を考える小さな整備工場のM&Aを視野に入れ、能登全体の自動車インフラを守る役割を自負しています。「もし引き継げる場所があれば、進んでやっていきたい」。頼まれれば力になる。その覚悟は揺るぎません。

「人口減少が一番大変です。若い人が戻ってこられる地域になってほしい」——そう語る社長の声には、静かな切実さがあります。売上は人口に比例する。だからこそ、地域に必要とされる会社であり続けることが、能登の未来を支えることにつながると信じています。

全国のみなさんへ——備えることの大切さ

震災を経験して、杉藤社長が強く伝えたいことがあります。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる、ではいけない。日頃から保険での危機管理はしていましたが、水や食料、薬や簡易トイレ、日常使いの備品などの備えも必要でした。特に、断水で大量の水が必要だったので、ポリタンクを手に入れるのに苦労しました。平時からきちんと準備しておくべきだと思います。自動車は冷暖房、携帯充電、ラジオ、テレビなどが使えるので燃料は常に半分以上を維持してほしいですね」

わかっていても、被災しないとなかなかやらないものと苦笑いしながらも、その言葉には実体験の重みがありました。全国からの支援と国の補助制度が、前を向く力をくれたとも話してくれました。

「なりわい補助金があるおかげで、逆に前向きな投資ができる。5年後、10年後のためにチャレンジできる」。マイナスをプラスに変える社長の発想が、この会社の底力です。 

社是に込めた三方よし

「社会に必要とされ、お客さまに選ばれ、社員に支えられている絆の強い企業を創る」——それがホンダ販売スギフジの社是です。

「単純ですけど、これが全部」と社長は話します。派手な言葉も壮大なビジョンも要らない。震災でも揺るがなかったこの言葉が、地域に根ざした会社の本質を静かに語っています。

松葉杖をついて夜中に水を汲みに行ったあの夜のことを、杉藤社長はどう振り返るでしょう。きっと「大丈夫でしたよ」と、笑うはず。その笑顔の裏に、能登を走り続ける覚悟がそっと宿っています。

企業詳細

株式会社ホンダ販売スギフジ(ホンダカーズ七尾中央)

本社 八幡店 石川県七尾市八田町ロ部1-3
       TEL 0767-57-3550

   大津店 石川県七尾市大津町1886
       TEL
 0767-68-3081


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