「ここの明かりは消しちゃいけない」—木ノ浦ビレッジ・山口代表が語る震災と再生

能登半島の先端に近い、珠洲市の外浦側。日本海を一望するその場所に、木ノ浦ビレッジはあります。昔から地域の人々が集い、外からも人が訪れてきた大切な場所。施設の老朽化でいちど更地になったあと、新たな宿として生まれ変わったのが今の木ノ浦ビレッジです。

代表取締役の山口さんは、珠洲生まれの珠洲育ち。母方の実家がこの木ノ浦にあり、幼いころからここの海で遊んで育ちました。金沢への就職を経て、珠洲に戻り、2021年に前代表の足袋抜さんから事業を引き継ぎました。そのわずか3年後、2024年元日の大地震が木ノ浦を直撃します。

今回は山口さんに、震災当日のこと、再開までの道のり、そしてこれからの木ノ浦への思いを語っていただきました。

11——「大きい家族みたいになっていましたね」

2024年11日。その日、木ノ浦ビレッジには宿泊客と地域の住民を合わせて、およそ50名がいました。

地震が起きてすぐ、山口さんはまずお客さんを上の駐車場(津波のときの指定避難場所)へ誘導しました。地元の方たちで確認しあったところ、周辺の道は全て通行できなくなっていることが分かりました。木ノ浦は、完全に孤立してしまったのです。

「電気もないですし、それぞれ自分の家はぐちゃぐちゃ。津波が来るかもしれないし、ここに避難させてほしいと地元の方々から言われて、『もちろんです』という形で受け入れさせてもらいました。本当に大きい大きい家族みたいになっていましたね」

集まったのは、ほとんど顔見知りの方たち。11日ということで帰省してきたお孫さんたちもいました。「この子誰だろう」と思ったら「うちの息子夫婦と孫なんです」という場面も。見知らぬ人ばかりが集まる避難所とはちょっと違う、あたたかな安心感がそこにあったといいます。

ホースで書いた「SOS ケガ」がヘリを呼んだ

孤立状態は4日間つづきました。その間、たくさんの知恵と助け合いが生まれたそうです。

食料は宿の備蓄に加えて、地域の方たちが正月用に準備していたお餅や米を持ち寄ってくれました。また、たまたまその場にいた看護師さん、水道屋さん、そして料理長が、それぞれにできることを率先してやってくれて、ずいぶん助かったといいます。
例えば、水道屋さんが発電機を持ってきてくれて、料理長が調理を担当してくれたおかげで、2日目のお昼からは、温かいご飯を食べることができていたそうです。

そんな中、一番心配だったのは、医療のことでした。持病のある高齢者の方が多く、薬の残量を毎日確認する日々。さらに転倒による骨折の疑いがある方が出てしまいました。

救急車は来られない。病院にも連れていけない。そんな状況でしたが、山口さんが気づいたときには地域の方が大型駐車場に、ホースを使って大きく文字を書いていたのです。SOS ケガと。

その日のうちに、自衛隊のヘリが降りてきました。SOSにちゃんと気づいてもらえたようです。骨折の疑いがある方はそのまま搬送され、無事に治療を受けることができました。

情報がえられず、連絡もとれない状態が続いていた中、携帯の電波を地域住民の方が探し歩いていたとき、かろうじて電波が届いている箇所を見つけたそうです。そこで、余所で年末年始を過ごしていた近所の方がメッセンジャーで送ってきたメッセージが届きました。

僕んちにスターリンクあるから使え

スターリンクとは、スペースX社が提供する衛星インターネットサービスです。その方の家からスターリンクを引っ張り出してきて、発電機をつなぎ、衛星通信を使い、夜の20分だけ、家族への連絡と物資のオーダーが出来るようにしたそうです。

「一番必要なのはガソリンでした。燃料が切れたら発電機が止まる。お客さんにお帰り頂くにも車の燃料が必要。とにかくガソリンと軽油をくれ、というオーダーをかけました」

その声を拾ってくれた民間企業が、すぐに動いてくれました。陸路が使えないため富山湾から船で運び、七尾港から陸送で珠洲まで届けてくれたのです。自衛隊の物資よりも早く、民間の支援が木ノ浦に届きました。道が開いた5日、民間の支援者の方が先導してくれて、燃料を満タンにした車でお客さんを無事送り出すことが出来ました。

ここの明かりは消しちゃいけない

孤立が解けたあとも、山口さんの肩には重いものがのしかかっていました。雇用しているスタッフの生活のことです。地震で仕事がなくなりました、では一番困る。でも再開しようにも、まず片付けをしないと前に進めません。

そのとき、スタッフから声がかかりました。

「いつでも片付け手伝うし、声かけて」

2月ごろから、明るい時間帯の2時間ずつ、少しずつガラス片を片付けていきました。電気は1カ月ほどで復旧。水は宅内漏水が残っていましたが、たまたまその場にいた水道屋さんが、まず管理棟と宿泊棟だけ優先して通してくれました。コインシャワーとトイレが使える状態をつくったところで、宿泊をしたいという問い合わせが届きます。

「水も出ないし電気しかないですよ、トイレもバケツで、という状態ですけど」と正直に伝えると、支援者の方から「それでもいいんです。今は雑魚寝で男女の区別もなく寝ている。男女で部屋が分かれて、自分たちの空間ができればそれだけでありがたい」という返事が来ました。山口さんは「なんてこった」と思い、「じゃあうちでよければ」と受け入れを始めたそうです。

3月末には3棟が開きました。それからずっと、支援に来た方たちが宿を使い続けました。道路は雨が降るたびに崩れ、自衛隊が土嚢を積み直しました。それでも明かりは消えませんでした。

「地震後、街灯もない暗闇の中で、ここに明かりがあるのとないのとじゃ、住んでいる人たちの安心感がやっぱり違うんだなと実感しました。料理長がずっと『ここの明かりは消しちゃいけない』と言い続けていたのですが、その想いが改めて胸に刻まれた感じでした」

一般のお客さんが戻ってきた——でも安心はしていられない

2025年のゴールデンウィーク、木ノ浦ビレッジに一般の観光客が戻ってきました。「やっとこんな感じだった、こんな感じだった」と思えるほど来てくれた、と山口さんは言います。でも、すぐに「安心はしていられない」と続けます。

震災前と比べると、体験できることや見られる場所は確実に減っています。

「お客さんに何をしに来てもらえるか、それをこの先どうしていくかを考えることが、すごく大事だと感じています」

地域の方たちと一緒に、今は浜のガーデンライトを使ったライトアップを計画中。打ち上げ花火のように費用がかかるものより、地域住民だけで維持できる賑わいをつくっていこうと話し合っています。暗くなってしまった夜の浜に、少しずつ光を取り戻そうとしているのです。

関係性を築くことが先。木ノ浦ビレッジはそのきっかけになりたい

山口さんが描く木ノ浦の未来は、人口を増やすことよりも先に、関係性をつくることです。

「人口を増やそう増やそうといっても、そんな簡単に増えるもんじゃない。ここの良さは、人との関係性だったり物々交換だったり。一人で生きていけるほど甘い土地じゃないからこそ、先に住んでいる人の知恵や力が必要なんです。良いところも悪いところも知ったうえで、それでも住みたいと言ってくれる人を増やしていく——そのきっかけをつくる場が、木ノ浦ビレッジであればいいと思っています」

冬は風が強く、雪が積もることもある。曇天が続いてメンタルにこたえる時期もある。それでもここに住む人たちが守ってきた景観があり、海があり、人のつながりがある。その現実をまるごと知ってもらうことから、本当の意味での関わりが始まると、山口さんは信じています。

「一回だけでいいから、ここに来てみてください」

最後に山口さんは、全国の方々へこんなメッセージを届けてくれました。

「日本は災害大国だと思うんです。大切なのは、それを自分のこととして考えられるかどうか。でもテレビの前でそう言われても難しい。だから、現場に来てほしいんです」

観光ついでで構わない。でも実際に来てみて、誰かと話した時に、たとえば「ご飯炊くのにカセットコンロやったんよ」というたった一言が、もしもの時に自分の記憶をよみがえらせてくれる。パニックになると手元にあるものさえ忘れてしまう。いざという時に出てくる知識って、そういう体験から来るんだと思います。

「一回でいいから泊まってみてください。ここだけ時空が違うというか、空間が違うというのを感じられると思います」

どう違うのかを言葉で表現するのは難しいようでしたが、取材後にコテージ裏から海を眺めていると、なんとなく分かるような気がしました。

 

夏はリゾート地のように明るく賑やかに。春や秋は、自分だけのおだやかな時間を満喫するのにおすすめです。サウナカーから海を眺め、揚浜式の塩を使ったピザをほおばり、地域の人たちの声に耳を傾ける。木ノ浦ビレッジはそんな場所です。

ここに来れば、きっと何か大切なものに出会える。そんな予感を胸に、ぜひ一度訪れてみてください。

木ノ浦ビレッジ 施設情報

住所    石川県珠洲市折戸町ホ部251

TEL     0768-86-2014

交通アクセス    能登空港ICより1時間 / 輪島市から約45 / 金沢市から約3時間

駐車場   無料駐車場 あり(コテージ前には1台のみ駐車可能となっております)

チェックイン / チェックアウト  

チェックイン:15:00 (最終チェックイン:20:00 / チェックアウト:10:00

カフェ「ブリーズ」  営業時間:11:3014:00L.O. 13:30)/水曜定休

宿泊・お問い合わせは下記公式サイトよりお願いいたします。

Kinoura Village | Base for Rest and Adventure!!


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